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<研究1部報> 枯れた「ひまわり」

COLOR No.162掲載

既にご覧になった方も少なくないと思いますが、最近気になったニュースをひとつご紹介したいと思います。
AFPの9月14日付のニュース“Science to the rescue of art*1”(日本語版『ゴッホやムンク作品の「色あせ」、科学的アプローチ必要 専門家*2』)によると、ゴッホの「ひまわり」の黄色の明るさが失われたり、ムンクの「叫び」の地平線から空にかけて使われているアプリコット色がくすんだアイボリーに変色したりしている、ということです。
人類の大切な遺産である絵画の一部は色褪せつつあり、これらの作品が認識できないほど損なわれる前に、巨匠たちのオリジナルの色を留めておくために最先端の技術が必要なのですが、そのためには現在投じられている10倍もの資金を投入する必要がある、と取材に応じた科学者は述べています。
例えば、スタジアムサイズの巨大な加速器の一種であるシンクロトロン(Synchrotron)を用いることで、世界の美術館を飾る有名な絵画の化学物質の劣化を分析することができますが、キャンバスでの色変化の原因となっている化学変化を理解するためには、もっと科学的アプローチが必要だとも言われています。劣化のプロセスを引き起こしている化学反応を理解することができれば、貴重な作品を展示する美術館の適切な照明、気圧、湿度などを調整することが可能となるということです。
日本人にとっても馴染みの深いゴッホの「ひまわり」ですが、専門家は既に「ひまわり」はゴッホがキャンバスに向かっていた1888年当初よりも、ブラウンに変色していることを知っているのです。この「ひまわり」の変色は、ゴッホが当時市場に出回り始めた工業用の顔料を黄色に使用したことが原因であり、その黄色の顔料であるカドミウムイエローはムンクの「叫び」にも用いられているというのです。カドミウムイエローには、空気に晒されるとその輝きを失い、紫外線により茶色っぽくなってしまうという性質があるそうです。
色の劣化という点では、ゴッホの「青い花瓶の花」も同様なのですが、劣化の原因は違っています。この作品の場合、画家の死後に塗られたワニスで、そのワニスが時間と共にひび割れや色褪せを生じ、下にある絵画の色彩を奪っているのです。
顔料に話を戻すと、前述のカドミウムイエロー以外にも、エメラルドグリーン、ジンクイエローなど、いくつかの合成顔料には、20年足らずで色の深みを失ってしまうものもあるのですが、これらの顔料はゴッホやムンクに限らず、他の19世紀の印象派画家や20世紀初頭のマチスやピカソなどの画家の作品にも使用されているのです。
そのため、この時期の作品の中には、過去の巨匠たちの作品よりも色褪せが生じるリスクが高くなっているものもあるのです。勿論、ゴッホやムンクよりも前に活躍した画家たちの作品もリスクを抱えていないわけではないのです。例えば、17世紀のレンブラントは青色にガラスを粉にしたスマルトを使用していますが、これは時と共にグレイに変色する傾向があると言われています。
この分野での科学の役割のひとつは、芸術保全のための警鐘を鳴らすことです。また、科学者たちは何も手を施さなければ、貴重な美術作品が50年後にどのような姿になってしまうのかをシミュレーションにより示す作業に取り組んでいます。

ゴッホの「ひまわり」
ノイエ・ピナコテーク
(ミュンヘン)

もし、美術品保全のために行動を起こさなければ、そう遠くない将来、これらの美術作品は現在私たちが見ているように見ることができなくなってしまうかもしれません。ゴッホの「ひまわり」はすっかり茶色に枯れてしまっているかも…。
なんとか早急に有効な解決策が実施されることを願うばかりです。

References
*1 http://www.afp.com/en/node/2832370/
*2 http://www.afpbb.com/articles/-/3025920


「ひまわり」は1888年8月から1890年1月にかけて7点が製作されたことが知られていますが、このニュースでは7点全てか一部かは分かりませんでした。同様に「叫び」も、リトグラフを別にして1985年と1910年バージョンがあります。写真を見る限り、盗難で損傷を受けてしまった1910年バージョンの方が色褪せて見えるのですが、両方なのか一方なのかは定かではありません。

〈江森 敏夫〉

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