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福田邦夫さんの思い出

COLOR No.160掲載

(一財)日本色彩研究所理事長 近江源太郎

福田さんは7月25日逝去されました。享年82歳。
東京教育大学教育学部芸術学科をご卒業後、財団法人日本色彩研究所に入所されています。その後社団法人日本流行色協会、九州産業大学芸術学部を経て、古巣の日本色彩研究所に戻られ、最後に女子美術大学大学院教授をお勤めでした。その間、一貫して色彩にかかわってこられました。日本色彩学会名誉会員。
かつて私が所属していた女子美術大学に、大学院を作ることになりました。学内で色彩系が候補に上がりましたが、私はこれには消極的でした。多岐にわたる色彩関連の分野からの、美大になじむカリキュラムの構成に自信がなかったからです。最終的には、測色学―心理学―人文学という枠組みを考え、その人文学系の担当者として福田さんを想定しました。前職を退かれており、期待をもってお願いに参上したのですが、「もうサラリーマンは廃業にする予定だ」とお断りでした。当時、たぶん61歳で、自由人としての新しい人生設計をもっておられたのでしょう。が、最終的には、お人柄から流れに逆らうことを避けられたか、あるいはご同情いただいたか、就任を受諾していただくことができました。
人文学は人間とその所産を対象とし、基本的なことは過去の人が語っているという立場をとり、方法論は文献学的で、解釈の論理的整合性が中心になります。他方、現代の、少なくとも日本における色彩研究は、自然科学系が主流で、測定をとおして帰納的、定量的に一般法則を追求します。けれども、福田さんの著されるものには、数字もグラフも皆無に近いといってよく、自然科学論文とは対極に位置します。
色名と調和論とは福田さんの大きなご業績です。『赤橙黄緑青藍紫』(1979)は、副題どおり、エピソードの羅列ではなく、詳細に第一次資料にあたったうえで、「色の意味と文化」について明晰なことばで語られました。ことばを大切にされる方でした。その後、色名に関する著書を多数執筆されており、福田色名学は高くそびえています。以前、「もう色名の本はこのへんでいいだろう」と仰っていましたが、『新版 色の名前507-色名の由来から色データまで』(2012)が最後の著書でした。
『色彩調和の成立事情』(1985)は、調和に関してわが国で出版された書籍のなかで貴重な位置を占めています。最終章の標題はフランスのデリベレによるとことわってありますが「色彩調和の人民投票」となっています。今日の調和論の研究であれば、調和実験に基づいた統計学的法則がおもに記述されているのが常です。けれども、harmonyはヨーロッパで歴史を重ねてきた概念で、「調和」とは似て非なる概念です。福田さんは深いヨーロッパ的教養を背景に、歴史を軸として、調和を論じられました。「理性だけで割り切れる問題ではなく、もちろん感性だけで片づけられる問題でもない」と。
寄物陳思ということばに倣えば、福田さんは「色に寄せて文化と人間とを陳べられた」といえましょう。
いまひとつ、『デザイナーの生態』(1972)『昭和ひとけたの人間学』(1977)など、人間の本性にかかわるという人文学に連なる著作があります。後者は、かなりのブームをもたらした世代論の先駆けでした。
実学には遠いですが、福田さんの人文学的な視点と学風とが色彩研究に定着することを願っています。
蔵書の一部を日本色彩研究所にもご寄贈いただくことになり、ご自宅にうかがいましたが、ご自身の著書群と色研にくださる書籍とを残して、書庫はみごとに空っぽでした。ご逝去の前までにすがすがしいほどに身辺整理をされていたようです。
福田さんは、人物月旦を口にされることはまれでしたが、あえていえば含羞の人、自制の人、孤高を保とうとする人、そして温顔の人でした。 
趣味は争うべからずとかねがね仰っておられましたが、音楽とりわけモーツアルトにはご愛着で、モーツアルト愛好会に所属され、会長もなさっていたと記憶します。深い信頼に結ばれたおだやかなご家族に囲まれて、音楽に送られながら、悠々と去ってゆかれました。

合掌 

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