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 <四方山話> 恋は錯覚から

COLOR No.157掲載

ニワシドリ科のオスは、メスの気を引くために、小枝などを組み合わせて東屋(Bower)を建てる優れた建築家であると共に、花、小石、骨、貝殻、そして人工物などゲッソー(gesso)と総称される材料を集めて東屋の周囲を飾る芸術家であることは有名ですが、それに加えて、彼らは手品師でもあるようです。オーストラリアのディーキン(Deakin)大学のLaura KellyとJohn Endlerは、オオニワシドリ(Great Bowerbird)のオスが錯視を生じさせるように東屋を飾ることで、メスを獲得しやすくしている、という研究報告をScience誌に発表しました(2012/1/20)。
オオニワシドリのオスは小枝などで50〜60p程のトンネル状の通路を作り、その先にゲッソーを敷き詰めたコートを用意します。そして、この東屋に何とかしてメスを誘い込むのですが、花嫁候補が通路に入ると、オスは通路の出口脇のコートに立って、彼の集めた宝物を次々に彼女に見せびらかし、何とか気を引こうとします。
コートを整備する時、オスは通路に近い場所に小さなゲッソー、遠い場所ほど大きなゲッソーを並べます。通常、同じサイズの物であれば、遠くにある物ほど小さく見えますが、このようにゲッソーを並べることで、メスの視点から見たコート上のゲッソーは全てが同じような大きさに見えます。このようにゲッソーを並べた空間はあまり遠近感を感じないので、実際よりも空間が狭く見えるという錯覚が起こり、相対的にオスをより大きく立派に見せます。また、この空間では、オスが見せびらかす宝物が、大きさの対比(エビングハウス錯視)により、少し大きく見えるということです。このように、遠近感を操作して、実際よりも物を大きく見せたり小さく見せたりする手法はForced Perspective(強制的遠近法)として知られています。
少し意地悪のような気もしますが、ゲッソーの並びを逆にして、近くに大きな物、遠くに小さな物が来るように並べ替えると、それに気付いたオスは、大急ぎで正しく並べ替えようとします。意地悪と言っても、彼らにとってはお互いにご近所の東屋を壊したり、ゲッソーを盗んだりすることも仕事のうちなのですが…。彼らのこだわりようからすると、ゲッソーを正しく並べることは、メスがオスを選ぶ際に、重要な要因であることが予測されました。そこで、KelleyとEndlerは、このような視覚効果を演出することで、オスが実際に期待の効果を得られるか否かを調べたところ、花嫁たちは強い錯視を起こさせるように東屋を飾ったオスを交尾相手に選ぶ傾向があると報告しています。また、彼らは他の種でもオスが錯視を生じやすいような位置や距離からメスにディスプレイをして、求愛行動を行なっている可能性も示しています。
異性に対して自分を実際以上に見せようとする努力には、何とも人間臭さを感じてしまいますが、逆に、このような行動パターンが太古の昔から種を超えて人間の行動に受け継がれているのでしょう。ただ、オオニワシドリのメスが錯覚に気づくことは無いでしょうが、残念ながら私たち人間は早晩、化けの皮が剥がれてしまいます。でも、その時の行動について、オオニワシドリは何も教えてくれません。

オオニワシドリ(Great Bowerbird)
スズメ目ニワシドリ科はオーストラリアやニューギニアに約20種生息していますが、オーストラリア北部に生息するこの科最大のオオニワシドリは体長35cm程度になります。この科の鳥を、和名ではニワシドリ(庭師鳥)、コヤツクリ(小屋造)、アズマヤドリ(東屋鳥)などと呼びますが、オスが作る東屋は、メスを誘うためだけの構造物で、交尾後メスは自分で巣を作り、オス抜きで子育てをします。
オオニワシドリ(Breat Bowerbird)Reference
Kelley, L. A. & Endler, J. A. (2012) Illusions promote mating success in great bowerbirds. Science, 335, 335-338.
http://www.sciencemag.org/content/335/6066/335
Visual illusion the key to mating success
http://www.deakin.edu.au/news/2012/
200112bowerbirdsvisualillusion.php
Bowerbird builds a house of illusions to improve his chances of mating.
http://www.guardian.co.uk/science/neurophilosophy/
2012/jan/19/1〈江森 敏夫〉

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