財団法人日本色彩研究所 近江 源太郎

カラフルということばを時折耳にする。概してよい印象を指して用いられるようであるが、具体的にはどのような状態をいうのか?色数が多い、鮮やかな色が多い、コントラストがある、色が強調されている、といったところであろうか。色数が多いとは、高彩度の色が作れることを前提にする。当所が制作している『JIS標準色票』も、版を重ねるごとに高彩度の色が補充されてきた。よりあざやかな色を、より正確に、より均一に、より速く、より安価に、大量に、は技術革新の目標であった。その成果として、人類が手にする色域は拡大しカラフルになってきた。当研究所の研究第2部は色彩工学や色票製作など、技術やその管理に関する研究を進めている。光が目に到達するまでを扱う。
他方、研究第1部は心理調査や人間工学さらにデザインや教育など、光が目に入ったあとの高次過程における人々の反応やその操作を扱う。
ここで問題は、技術的に拡大した色域に、どう対処するかというところにある。人びとは新しい色に目を奪われがちであるし、デザイナーも新開発の色に挑戦しようというはやる気持ちもある。色の流行り廃りは人びとの心がもたらすとみなされやすい。また、プライドからも私の心が選んだと思いたいところもある。けれど色彩の普及の跡をたどると、技術に導かれて社会の色が移ろうという面は見逃せない。しかし、新しい色を手にしたことと、それを使うかどうかとは別である。魅力的なお菓子が目の前に供されたことと、それに手を出すかどうかとは別の話である。メタボ回避のためにも。では、拡大した色域をどう使いこなすか。そのなかから「よい色」をどう選ぶか。そこでは、とたんに色が自己主張の具になる場合がある。よい景観を!という主張は大抵の人が賛意を示すけれども、具体的にどの色を選ぶかという段になると、住民の合意形成は容易でない。
が、ここで多色配色についての心理実験から得られた1枚のグラフを紹介したい。図に見られるとおり、面白さは複雑な配色ほど高くなる。けれども、快さは複雑さが中程度のときに最も高い。単純すぎても複雑すぎても快さは低くなる。右端はいたずらに複雑なだけで快くない、いわゆる「騒色」の状態であろう。左端は単調で退屈、少し右に移行したところに俗にいう「癒し」の色がありそうである。複雑さは多様性、変化そしてカラフルへとつながる。
日常的な環境であれば、「よい色」は中央かそれを少し過ぎた辺りにあるのではないか。しかし、この中庸、ほどほどはむつかしい。人びとに抑制を求めるからである。
当所の2つの研究部はその狭間でバランスをとってゆかなければならない。
